お世話になります。
の高橋です。
「属人化をなくしましょう」とシステム屋の営業マンから
聞いたことがある社長さんは多いでしょう。
いわく、「業務を標準化」「誰でも同じ仕事ができる状態にする」と
それがシステム導入の目的のひとつとして定義されることは
珍しくありません。
事実として、このデジタル化が進んだ現代でも
特定の従業員しかわからない業務が存在する会社は多いです。
その従業員が退職したとたんに業務が混乱した、
という経験をしたこともあるかと思います。
だから「属人化は悪」「属人化をなくすことが正しい」という主張は、
一見すると正論に聞こえます。
ITベンダーの営業トークとしてこれは非常に使い勝手がよいもので、
今日、日本中の会議室あるいはオンラインでこの言葉が使われています。
ただ、本当に、属人化をなくすことは純粋な善なのかというと
そうでない場合も多くあります。
属人化を減らすためには、多少なりとも
業務をシンプル化の方向に整理してゆく必要があります。
「誰でも同じ仕事ができる状態にする」を言い換えれば
「それは誰にでも覚えられる業務である」となります。
つまり属人化撤廃のために仕事の複雑さを減らすわけですが
その減らした複雑さこそが、
これまで自社が顧客に提供してきた強みである場合が
少なからず存在します。
長年かけて磨いてきた職人的な判断、
顧客ごとの細やかな対応、暗黙知に裏打ちされたサービス品質
これらは属人的であるがゆえに成立しているものかもしれません。
自社の独自性を残しながら複雑さを無くす、が
虫のいい理想論だった、ということになる事態は避ける必要があります。
属人化をなくし、業務をシンプルに標準化した結果
自社の強みまで一緒に削ぎ落としてしまった、という本末転倒は
十分に起こりうる、ということです。
また、仮に属人化をゼロにし業務の標準化ができた場合
そのノウハウは自社のみに留まるものではない、という観点も
持っておく必要があります。
そのノウハウはいずれ必ず同業他社に漏れます。
あるいは従業員が簡単に独立するきっかけを与えることにもなるでしょう。
標準化されたノウハウは文書化され、まずは自社内に広まります。
従業員はいつか退職し、独立して同業他社になる者も現れます。
独立して同業他社になる従業員は、必ず件の標準化ノウハウを持ち出します。
つまり、ノウハウを整理する行為は、
競合他社への流出経路を自ら整備することと同義です。
属人化が残っている場合、少なくともその属人化部分、
その特定従業員個人の頭の中にのみ存在するノウハウは強固であり、
そう簡単に持ち出されることはありません。
ヘッド・ハンティング、引き抜きはあり得ますが
文書を持ち出すよりは相当に難しいことは間違いありません。
もちろん特定従業員の予期せぬ退職のリスクはあるので、
属人化は悪である、という主張は正しい面もありますが
それが全てではありません。
属人化を残すことは、自社のノウハウを守る手段でもあります。
競合他社や独立を目論む従業員に対する参入障壁を維持する
有用な経営戦略のひとつともとらえられるはずです。
何でもかんでも標準化、見える化、誰でもできる状態、にすることが
必ずしも正解とは限りません。
大切なのは、どの業務を標準化し、どの業務を属人的なまま守るかを
経営者自身が明確な意図を持って選ぶことです。
その判断を、システム屋の営業トークに委ねてはいけません。
本日もお疲れさまでした。
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